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東京地方裁判所 昭和45年(ワ)10125号 判決 1973年3月27日

原告 関口建材株式会社

右代表者代表取締役 関口充

右訴訟代理人弁護士 堂野達也

同 服部邦彦

同 堂野尚志

同 弘中惇一郎

被告 東建株式会社

右代表者代表取締役 瀬田正

右訴訟代理人弁護士 大内英男

主文

一  被告は原告に対し、金一七九万四三〇〇円および内金一二五万七八〇〇円に対する昭和四五年九月二一日から、内金五三万六五〇〇円に対する同年一〇月二一日から各支払ずみまで、年六分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

四  この判決は原告勝訴の部分に限り、原告が金六〇万円の担保を供するときは、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

(一)  年六分の付帯の請求を全額につき昭和四五年九月二〇日から求めるほかは主文第一・三項同旨。

(二)  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

(一)  原告の請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

(一)  原告は建築資材の販売、被告は建築の請負をそれぞれ業とする会社である。

(二)  原告は、昭和四五年六月二五日被告の工事現場の工事長にして被告を代理する権限のある訴外望月理夫(以下望月という)との間で、同代理人の被告の名による発注に基き、品川区南品川の大塚パッキング事務所新築工事(以下本件工事という)に使用する建築資材の売買契約を締結し、右契約に基いて同年六月二五日より同年八月二六日まで、六回にわたり本件工事現場に生コンクリート、モルタル等の建築資材を納入した。

(三)  ところが、被告は(イ)同年七月二六日納入分(生コン一八〇キロ、モルタル等代金六七万九〇〇円)、(ロ)同年八月一〇日納入分(生コン一八〇キロ、モルタル等代金五八万六九〇〇円)、(ハ)同年同月二六日納入分(生コン一八〇キロ、モルタル等代金五三万六五〇〇円)(以下右(イ)(ロ)(ハ)を併せて本件資材という)の代金計一七九万四三〇〇円を支払わない。

(四)  右(イ)(ロ)の支払期日は同年九月二〇日、(ハ)の支払期日は同年一〇月二〇日の約であったが、被告は(ハ)については期限の利益を喪失した。

(五)  仮に、望月の発注が無権代理行為であったとして、被告はつぎのとおり右行為を追認した。

1 当時原告の専務取締役であった訴外関口充が昭和四五年八月四日被告の代表取締役瀬田正と初めて面談したとき、同人は原・被告間の取引関係を認め、支払につき責任をもつ旨を述べた。

2 更に、右瀬田は、同年九月八日頃前記関口および原告の代理人堂野尚志弁護士に対して、高見建設との二重払いの虞れさえなければ、原告に対し支払をなすことを明言した。

(六)  よって、原告は被告に対し、本件資材の売買代金一七九万四三〇〇円およびこれに対する支払期日たる同年九月二〇日から支払ずみまで、商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

(一)  請求原因(一)は認める。

(二)  同(二)のうち、望月が被告の工事長たること、および原告がその主張日時と回数にわたり原告主張の資材を本件工事現場に納入したことは認めるが、望月の代理権および同人が被告の名で発注したとの点は否認する。被告会社では、工事長といえども、資材が必要なときは事前に上司の決裁を得なければ、これを発注する権限を有しないものである。

また、本件工事については、被告が昭和四五年六月一三日そのコンクリートおよび躯体工事を訴外高見建設株式会社(以下高見建設という)に請負わせ、本件資材は高見建設が右工事に使用するため原告に対し発注したものである。

(三)  同(三)は、その各納入数量・金額は不知。

(四)  同(四)は否認する。

(五)  同(五)の事実は否認する。すなわち原告が本件資材を納入したことにより工事が完成したのは確かであるが、被告としては右工事を高見建設に請負わせた以上、その代金は請負代金の一部として高見建設に支払えばよいところ、それでは高見建設が原告にその代金を支払わない虞れがあるので、原告に対する支払いを確保するためにその代金を直接原告に支払ってもよいということを申し述べたことがあるだけである。

第三証拠≪省略≫

理由

一  請求原因(一)の事実、および原告が被告の本件工事現場に所要資材を搬入したことは当事者間に争いがない。

二  ≪証拠省略≫を総合すると、望月がその都度被告を代理して本件資材を原告に対して発注し、これに応じて原告が原告主張の代金額相当の本件資材を納入した事実が認められ(る。)≪証拠判断省略≫

そこで、望月に被告を代理して本件資材を発注する権限があったかを検討すると、先ず望月が本件工事につき被告会社の工事長であったことは当事者間に争いがなく、更に≪証拠省略≫を総合すると、被告会社には資材課ないし資材係はなく、工事長が担当工事につき工事現場における一切の責任者として工事の進行に応じて所要の資材を適時適量に外部の業者に対して発注する権限等を包括的に任されていたことが認められる。尤も、右各証言によると、被告会社では工事長が現場で資材を発注するには、事前に要求書を上司に提出し、その決裁をうけるべきことになっていたことが認められるが、同時にこれは工事長の対外的権限に対する内部的制限であることが認められる。≪証拠判断省略≫

そうすると、当時望月が被告の従業員として有していた工事長という地位は、商法第四三条第一項に謂う使用人に該ると解するのが相当であり、したがって右望月は、委任された工事に必要な資材の購入に関し一切の裁判外の行為をなす包括的代理権を有するものであり、これに対する前示制約は右包括的代理権に加えた制限に他ならないから、同法第四三条第二項、第三八条第三項により、これをもって善意の第三者に対抗しえないものである。そして、第三者である原告において右制限につき悪意である旨の主張立証はなく、却って、≪証拠省略≫を総合すると、原告が右制限につき善意であったことが認められる。

三  そこで、被告は原告に対し右代金合計一七九万四三〇〇円を支払うべきであるが、≪証拠省略≫によると、右代金のうち一二五万七八〇〇円についてはその弁済期が昭和四五年九月二〇日、うち五三万六五〇〇円についてはその弁済期が同年一〇月二〇日であると認められるから、被告は原告に対し右各金額に対する各弁済期の翌日から支払ずみまで商事法定利率たる年六分による遅延損害金を支払うべき義務がある。反面、原告の遅延損害金の請求中、それより以前の分を請求する部分は理由がない。

四  よって、原告の本訴請求中理由ある部分を認容し、理由のない部分を棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第九二条、仮執行の宣言について同法第一九六条一項を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 安井章)

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